KARENを立ち上げた、ASHEBERY創業者の武藤諒俊。インテリアコーディネートをプロに頼んで快適に暮らしたい。それが驚きの価格とスマホで完結するサービスが注目だ。
スマホ上で、自分の部屋のインテリアコーディネートをプロに頼めて、提案された家具をそのまま注文できる —— 。スマホのインテリアサービス「KAREN」が、2019年1月のスタートから話題を呼んでいる。コーディネート料金は7980円と業界最安クラスながら、理想の部屋づくりができると、20〜30代女性を中心に注文が急増。
テクノロジーの力でインテリア業界の変革に挑む、KARENを展開するASHBERY創業者の武藤諒俊(28)を訪ねた。
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きっかけは彼女と同棲解消「きっかけは、彼女との同棲解消でした。2人暮らしの12畳のリビング・ダイニングの部屋から、一人暮らしの6畳ワンルームに引っ越したのですが、生活の質がすごく下がってしまって」
KARENのサービス開始からさかのぼること半年。武藤は、リクルートのUXデザイナーとして働いていた。別れた彼女が残した家具をすべて引き取り、一人暮らしの部屋に持ち込んだ。
しかし、床や壁のテイストも違うせいか、今のワンルームの部屋とはまるで合わなかったのだ。
武藤は「昔から家が好き。家でいろいろやりたいことがあるんです」。あちこち出歩くより、居心地のいいソファでくつろぎながら、Netflixを見たり本を読んだりしたい。それなのに「寝るだけの部屋になっていたことが不満だったんです」。
当時から起業を構想していた武藤が、後の共同創業者となる友人と打ち合わせで入った東京・恵比寿のシーシャ(水タバコ)カフェ。
「インテリアがお洒落で。こういう部屋にできたらいいのになあって思わずホンネでボソッとつぶやいたら、それそのままサービスになるじゃん、と。その友人に言われたんです」
インテリア☓ITというブルーオーシャン
インタビューは、東京・代官山の家具店greenicheで行われた。同店の家具も、KARENのコーディネートと提携しており、KAREN上で購入できる。
「快適でお洒落な部屋で暮らしたい」
そう思う人は少なくないが、では実際にプロのインテリアコーディネーターに頼んだ経験のある人は、どのくらいいるだろうか。
「現状、プロに頼もうとすると、時間もお金も相当かかります」(武藤)
一般的にインテリアコーディネーターに頼めば、対面形式で希望の部屋のイメージについて2時間ほどのカウンセリングを受け、次のアポイントまで100問以上10枚ぐらいのアンケートフォームを渡される。
間取りの図面を出して、部屋中を測定して見積もりを出して……コーディネートだけ十数万円になることも。追加で家具を買えば、相当な金額になり、既存のインテリアコーディネートサービスの多くが若年層や子育て世代にはどうしてもハードルが高い。
かといって、自分でネットで理想のインテリアを探そうにも「ECサイトが分散しているので見つけるのに時間がかかる。そこから実物を見に行けば数カ月仕事です」(武藤)。
武藤はこの不便さにこそ、勝機があるとみた。
「インテリアとITのスキルが掛け合わさった人材が非常に少ない。業界全体が非効率の中、そういうハードルを全部取っ払ったサービスがあれば、確実にニーズがあると考えました」
エンジニアでありUXデザイナーでもある武藤。自ら開発に携わったKARENのサービスはごく、シンプルだ。
KARENを使ったコーディネートの実例。右上がビフォアー。
提供:KAREN
■KARENサービスの流れ■
会員登録後、部屋の写真、間取り、ライフスタイルなどのデータを入力。好みのテイストもオンラインで診断し、自宅訪問や見積もりはない。
その結果を受け、プロのインテリアコーディネーターが3Dの完成イメージを使って提案。
コーディネートに使われた家具はすべてKARENのサイトから購入できる。
ここまでオンラインで完結、1部屋7980円最短5日間。家具の購入は任意で別料金。
メーンターゲットは、結婚や子育てなどライフステージの変化を迎える20代後半から30代前半の女性。KAREN提案のインテリア3D画像がSNSで拡散されるなど、サービス開始の1月から、当初見込みの10倍近い申込みがあったという。
インテリア業界の底上げをしたい業界最安値のコーディネート価格が成立するのは、ITツールの導入で工程に極力人手をかけないから。加えて、KARENがコーディネートサービスであると同時に、家具販売のプラットフォームであることも大きい。KARENは現在、複数業者と提携し1万点のインテリアを取扱い中。KARENを通じて売れた家具は一定の手数料が入る。
インテリア業界で、武藤がもうひとつ課題を感じたのが、インテリアコーディネーターの働き方だ。
KARENは約50人のインテリアコーディネーターを擁しているが、ほとんどが副業としてリモートワークで関わっている。
「インテリアコーディネーターの仕事は資格を持っている人はいても、インテリア系の事務所のインターンのような形式で低賃金で働いていたりして、食べていくのが難しい。非効率ゆえに単価が高くなり、インテリアコーディネートの市場規模が小さすぎるためです」と、武藤は指摘する。
「KARENの仕事を請け負っているコーディネーターたちが、どんどんKARENでの実績もキャリアとして公表して、ステップアップできる場にしたい。そうやってインテリア業界の底上げをしたいのです」
アポなし直談判でシリコンバレーのインターン
インターネットでビジネスをやるならシリコンバレーと、とにかく飛び込んだ。英語はスタバの注文も怪しかったが「なんとなった」と言う。
GettyImages/Emma McIntyre
「社会人1年目で、自分の立ち上げたサービスに喜んでくれている人の姿を見て。世の中をよくするために自分にもできることの片鱗をつかめた気持ちになりました」
武藤は2015年にリクルートに入社。入社時から、訪日外国人対応アプリの開発を、サービスデザインからプロモーションまでを一気通貫で担当。老舗のホットペッパーを経て、プロダクトマネージャーとして新たなアプリ開発に関わってきた。
「自分からやらせてほしいとがんがん言うタイプだったこともありますが、自由にやらせてもらったと思います」と、振り返る。途中、大企業ならではの稟議の多さを歯がゆく感じることもあったが、総じていい経験を積んだと思っている。
学生時代にはウェブを介して大規模イベントを主催するなど、もともとインターネットで新しいビジネスをつくることに意欲的だった。
大学3年生の2012年秋には、シリコンバレーの人気スタートアップbtraxにアポなしで採用面接を直談判。半年間のインターンを取り付けている。UXデザイナーとしての基礎を叩き込まれると共に、カジュアルに起業する空気を、シリコンバレーで体感した。
6畳ワンルームからの出発
「インテリア業界全体の底上げにならなければ、やる意味がない」と思っている。
そんな武藤が、リクルート内でのサービス立ち上げを経て「本当にやりたいことを実現するための最適な手段は、起業だ」と考えるようになったのも、ごく自然な成り行きといえる。
2018年6月末にはリクルートを退社。退社した直後に、当初予定していたサッカーファンコミュニティのアプリ事業が頓挫して、共同創業者と共に頭を抱えていたのが、冒頭のシーシャカフェ。そこでひらめいたのが、インテリアコーディネートのKARENだ。
では、KARENを通じて、インテリア業界の革命に挑む武藤のその先にある「本当にやりたいこと」は何か。
「僕は極端な話、出会った人全てを上昇気流に乗せたい。KARENを使って暮らしが良くなるというのは当然ですが、インテリア業界に身をおいている経営者として、業界全体がよくなるように底上げしていく。そのことに身を粉にして、捧げていきたいと思っています」
ちなみに今も、武藤の部屋は、あの6畳のワンルームだ。
「インテリアを真剣に考える人を増やしたい」と、単月1000コーディネートを目指して、ひた走る現在。「今はまだスタートアップ感あふれる部屋で。早くインテリアの会社経営者っぽい部屋に引越せたらいいんですが」と、照れ笑いした。(敬称略)
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